【鍼(はり)について】
鍼治療に用いる鍼灸針(しんきゅうしん)は、注射に使う注射針とは違います。注射針は、尖端が刃(やいば)になっており、皮膚や血管や筋肉などを切り裂いて入っていく竹槍(たけやり)のような形状ですが、鍼灸針の尖端は丸みをおびた流線形となっており、皮膚や筋肉をかき分けながら入っていきます。また、鍼灸針の太さは直径0.10~0.30mmで、注射針と比べると10分の1くらいの太さになり、細いものは人の髪の毛の太さと変わりません。
このように、鍼灸治療で用いる針は微細で、身体への負担が極力小さくなるように作られているのですが、鍼治療の特性上、どうしても皮膚や皮膚の下にある筋肉を直接刺激しなくてはなりません。そのため、施術するお身体の場所や施術の方法によっては、皮膚を通り抜けるときに少々チクッと感じます。また、患者様の痛みの原因となっている、筋肉や関節の炎症などがある部位に鍼先が直接当たると、鈍く重くズーンと広がっていくような感覚が現れます。このような鍼治療に伴う独特な感覚は“はりひびき”と呼ばれています。この“はりひびき”は、鍼が目的どおり適切な場所・深さに入っているかどうかを確認するための指標にもなるため、しばしば、施術者が患者様に“はりひびき”の有無を確認しながら鍼治療をさせていただくことがあります。
ごくまれに、施術するお身体の場所、お身体の状態(服用している薬の影響)、患者様の体質などによって、鍼治療を行った場所に皮下出血(青あざ)が出来てしまう場合があります。また、治療直後にはわからないものが、時間が経ってから青あざが現れることもあります。通常は軽微な皮下出血であれば、特に何もせず放っておいても1週間前後で治ります。
【灸(きゅう)について】
昔から行われている伝統的な灸療法は、小さな円錐状に形を整えた艾(もぐさ)を皮膚の上で燃焼させて、身体の最も外側を覆っている表皮(ひょうひ。厚さ0.1mm前後)と、表皮の下にある真皮(しんぴ。厚さ数mmの丈夫な層)に火傷を生じさせていました。
こうすることで、免疫機能を司(つかさど)る白血球などの細胞を活性化して、病原体(細菌やウイルスなど)の感染から身体を守る力を高めたり、炎症が速く回復したりする効果を引き出してきたのです。
しかし、このような伝統的な灸療法では火傷痕が残ってしまいます。
当院の灸治療は、熟練した施術者によって燃焼時の最高温度が瞬間的に50℃台前半となるように調節され、表皮のうち最も表層にある角質と呼ばれる部分だけに熱変性を起こさせます。そのため、一瞬だけチクッと感じるように加減されており、施術後数時間経つと、“ほくろ”のような茶色い焦げ色が浮き上がってきます。健康な人では、表皮は常に垢(あか)となって数日単位で新しい細胞と入れ替わっていますので、角質についた焦げ色は5日前後で消えてしまい、痕が残ることはありません。
まれに、施術するお身体の部位、患者様の体質や、お身体の状態などによっては、灸治療を行った箇所に水疱(すいほう、水ぶくれ)が出来てしまうことがあります。水疱が小さいものであれば、搔(か)き壊さないよう注意して過ごしていただけば傷痕が残ることを予防できます。
なお万が一、水疱が大きなものであったり、水疱を搔き壊してしまったりした場合などには傷痕が残ることがありますが、ふつう、灸の痕は1週間前後でかさぶたになり、かさぶたが剥がれた後は徐々に赤みが引き、数か月~1年くらいで白く目立たなくなっていきます。
【当院の治療について】
王子神谷はりきゅう流德堂では、はり(鍼)治療ときゅう(灸)治療を患者様の症状や体質に合わせて使い分けて施術します。はりもきゅうも、身体の表面にあるツボを刺激し、感覚機能をとおして患者様のお体の不調を正常に戻していく治療です。そのため、はりもきゅうも施術中には独特な感覚があります。
当院では、患者様がいやだと感じる刺激は極力与えないよう心がけており。そのような刺激を与えてしまう可能性のある場合には、都度説明するように心がけています。しかし、もしも施術に伴い我慢できない感覚が生じることがあったり、受けることに抵抗がある施術方法がありましたら、施術の方法を変えて対応いたしますのでお気兼ねなくお伝えください。
【施術の流れ】
◆ご来院時、はじめに検温(非接触式、額にて)と血圧測定を行っていただきます。
毎回、計測結果をメモにとり、施術者にお見せください。メモはお持ち帰りいただけます。
◆初めての方のみ、予診票のご記入をお願いいたします。
◆施術室の中では、はじめにお話を聴かせていただきます(医療面接)。
医療面接では、① 現在の症状、② いつから、どんなきっかけで症状が現れたのか、③ どうすると辛く、どうすると楽になるのか、④ その他の症状、⑤ 生活の様子、食事、便通、睡眠、趣味など、⑥ 過去や現在治療中の病気、服用中のお薬など、⑦ ご家族のこと、などを中心にお話を伺います(初診時は10~15分程度)。
◆初めての方や、症状に変化が生じた際などには検査をさせていただきます。検査の目的は、症状の原因となっている場所や、その程度を正しく把握するためで、初診時には5~10分程度かかります。当院で行う検査は、症状(痛み、しびれなど)がある場所、あるいは症状と関係する場所に負荷をかけて、症状が再現するか否かを確認するものです。そのため、検査を行う中で痛み、しびれなどの症状が生じてしまうことをご了承ください。
◆その後、ベッドに寝ていただき、お腹を見て押させていただいて痛みの有無やその場所を確認させていただきます。また、必要に応じて脈やお口の中、舌なども診させていただき、刺激が必要な部位(ツボ)の場所を特定し、施術の方針を決定します。
◆施術の順番は、はじめに手足のツボに円皮鍼(えんぴしん)やお灸をして、お腹の反応の変化を診させていただきます。また、必要と判断した場合は頭にも鍼(とうひしん)をさせていただくことがあります。
お腹を押したときの痛みが変化すれば、自律神経の調整は終了です。ここまでおよそ10分間です。
次は、症状のある場所(筋肉、関節など)や、症状に関連する場所(神経、筋肉、関節など)を診て、鍼、灸、灸頭鍼、鍼通電などの施術をさせたいただきます。この施術は全部で30~40分です。
◆最後に再びお腹や脈などを診せていただき、施術前との変化を確認します。はりきゅうコースの施術時間はトータルで約60分前後です。
【生活上の注意】
痛みの治療、特に捻挫(ねんざ)やギックリ腰、寝違えなど急性の炎症を治療した後、当日の入浴や飲酒を控えていただくことがあります。
以前はギックリ腰になった際は安静を指示されることが多かったのですが、近年の臨床情報では、ギックリ腰の後でも動ける場合は出来るだけ動いた方がよいことが判っています。したがって、鍼灸治療の後も日常生活上の運動は制限する必要はありません。
一方、スポーツによって痛めてしまったような場合は、特定の運動を制限させていただく場合があります。
また、飲酒や特定の食材(過剰な糖質や、季節にそぐわない冷たいものなど)の摂取についても、症状と関係があると思われる場合には助言させていただく場合があります。
慢性的な症状や、症状の再発予防のために、ご家庭でできるストレッチングや運動療法などについても助言させていただく場合があります。
【その他】
治療効果を一層高めるために、赤外線灯や低周波療法など電気を用いた治療を併用することがあります。特に、通電時のビリビリした感じが苦手な方は予めおっしゃってください。
痛みの治療を目的に行う灸頭鍼(きゅうとうしん)という施術方法は、煙がたくさん出ることで患者様の衣服や毛髪に匂いが着いてしまいます。衣服の匂いについては、施術着(当院で用意しています)に着換えていただくことで防ぐことができます。また、毛髪に着いた匂いは一回の入浴・洗髪で解消します。